『シリウスの道』(藤原伊織)

『蚊トンボ〜』を途中で挫折した身には、読み進めるのが最初不安だったものの。
幸いにして藤原ワールド全開な内容でした。
広告業界を舞台にした、ビジネス・ハードボイルド。
しがないエロゲのシナリオ屋から見れば、あまりに眩しい世界の物語。
展開がわりと遅めなので、前半はややだらけるものの、下巻3分の1ほど読んだあたりから、俄然、面白くなってきます。
後半は一気。
ちなみに、謎解き的な要素はほとんどないです。
 
組織論から逸脱して我が道を往く主人公。
その主人公のまわりに(なぜだか)集まってくる、いいヤツやら優秀な人材やら。
けっこう杜撰でスキの多い敵役の面々。
そしてなにより、一本芯の通った魅惑の“イイ女”なヒロインたち。
藤原作品に登場するヒロインたちは、とくに読者に媚びを売るわけでもなく。
濡れ場や色っぽいシーンがあるわけでもなく。
それでいて、独特の色香を醸しだしていて、魅力に満ちていて。
彼女たちの登場シーンを読むだけでも、ゾクゾクします。
 
というわけで今作では、キャリアウーマン、OL、人妻と、それぞれ個性のちがった3人のヒロインが登場するわけですが。
そのなかでも、主人公の上司・立花女史は素晴らしい。
男の夢というか、理想の“女上司”という妄想が結集した姿というか。
個人的に、こういうタイプのヒロインには大いに惹かれます。
 
……それはそれとして。
この文庫版の、なんの工夫も面白みも売る気もない表紙は、どうにかならないものかと。
イラストレーターさんは、一線で活躍されている方のようですが。
広告業界のなにかをシンボライズしてるようでいて、そういうワケでもなく。
まあ、なんとなく内容を暗示しているようなデザインではあるような気もしないわけでなく。
味わいのある絵と思えば、そういう気もするし。
しかし。
タイトルが“シリウス”なんだから、せめて星座とか星とかをモチーフにして欲しかったような。

シリウスの道 上 (文春文庫)

シリウスの道 上 (文春文庫)

シリウスの道 下 (文春文庫)

シリウスの道 下 (文春文庫)