『奇偶』(山口雅也)

文庫の帯に「日本推理小説四大奇書に連なる第五の奇書!」とあって、それが山口雅也氏の著書となれば、いやでも期待は高まるわけで。
 
ちなみに四大奇書というのは、
黒死館殺人事件』(小栗虫太郎
ドグラ・マグラ』(夢野久作
『虚無への供物』(中井英夫
匣の中の失楽』(竹本健治
の四冊。
四冊読んだ中では、『黒死館〜』のわけのわからなさが個人的にいちばん好きだったり。
「わけがわからない」のは、ある意味、この四冊すべてそうなんだけれど。
 
で、この『奇偶』。
五冊目の奇書とするには、「わけのわからなさ」が足りない。
はたしてこれを「ミステリ」といってしまっていいのかどうかは微妙だけれど、「小説」としては、まあ、それなりに愉しめもした。
でも、期待したほどではなかったなぁ……というのが正直な感想。
読後感は『ドグラ・マグラ』に近い?
 
人死にやら原発事故等、それなりに事件が発生して話は進んでいく。
けれど語り手である主人公は、「偶然」についての衒学的な語りに執着して、「なにが起きてるのか」というドラマがなかなか見えてこない。
話の焦点がいまいち定まらず、ずっともやもやしたまま頁が進んでいくので、どうにもノリきれず。
加えて主人公の性格にいまいち共感できなくて、作中で重要な役割を果たすはずのヒロイン(?)も描写が薄くて魅力が感じられなくて。
一応、ラストで世界観がひっくり返される展開があるものの、最近はこの手のオチもだんだんありきたりになってきた印象も否めなくて。
  
よくも悪くも、落ち着くところに落ち着いてしまった印象。
 
ただ、「偶然」とは何かという問題を、物理学、数学、神学、哲学、文学、民俗学、心理学等、あらゆる分野から検討していく筆者の筆力は圧巻。
第五なのかどうかは別として、「奇書」であることはたしか。

奇偶(上) (講談社文庫)

奇偶(上) (講談社文庫)

奇偶(下) (講談社文庫)

奇偶(下) (講談社文庫)