『美男狩(上・下)』(野村胡堂)

タイトルだけ見ると、耽美なBL小説ぽいけれど、さにあらず。
銭形平次」の野村胡堂・著の大長編伝奇ロマン。
 
時は幕末維新前、闕所(けっしょ)になった大商人の隠し財産をめぐる争いを端緒に、多彩な人物の思惑、欲望、奸計、怨念等々入り乱れ、万華鏡のごとく千変万化に展開してゆく空前の物語、といっても過言ではなく。
因縁めくふたりの美男剣士に、化け物屋敷に住まう高貴な女、妖艶なる女道士、薄幸のお嬢様、姉御肌の美女、軽業師の美少女、兇賊、忍者、チンピラ等々。
ひとくせもふたくせもある人物たちが、これでもかというくらい入り乱れつつ、破綻することなく最後まで描ききる圧巻のストリーテリングに、ただただ圧倒。
下巻は、ラストまで一気読み。
 
「です・ます」調で講談風の特異な文体は、最初は戸惑うものの、すぐ慣れる。
また、泉鏡花の影響を受けながらも、決して華美絢爛すぎることもなく。
 
キャラの造形、伏線の張り方、プロット、文章……すべてにおいてここまで「巧い」というか「凄絶」と思わせる小説は、そうはないかも。

美男狩〈上〉 (大衆文学館)

美男狩〈上〉 (大衆文学館)

美男狩〈下〉 (大衆文学館)

美男狩〈下〉 (大衆文学館)