『迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか』(シャロン・モレアム)

進化とは本来、有害な遺伝子を淘汰して役に立つ遺伝子だけを残すもののはず。
なのに実際は、多くの病気の遺伝子が人に受け継がれてしまっている。
それはいったい何故なのか?
……という疑問に対する「仮説」を提言する科学解説本。
なぜ「仮説」なのかというと、本書に記されている内容は、現在の科学界ではどちらかというと異端的な説を扱っているから。
 
たとえば「ヘモクロマトーシス」という、体内の鉄代謝を乱す遺伝性の病気がある。
鉄分が排出されずに体内にどんどん溜まっていく病気で、発症すると最悪、死に至る。
となればとっくに淘汰されていてもおかしくないのに、現実には西ヨーロッパ系の人々によくある変異ならしい。
ならなぜこの変異遺伝子が現在も受け継がれてきたのかというと、この遺伝子を持つ者はペストに強く生き残る確率が高かったからだという。
同様にソラマメを食べることで急性の重い貧血を起こす「ソラマメ中毒症」も、そのかわりマラリアに耐性があるがゆえに現在まで受け継がれてきた。 
要するに、一面だけを見れば厄介な病気の遺伝子も、別の側面から見れば生存のために有益だったのだというのが本書の主張。
 
また本書では、「水生類人猿説(アクア説)」にも言及している。
これは、人類は進化の過程で一時期水中で暮らしていたという、かなりの珍説。
だけれどこの説だと、人間に体毛がなかったり、妊婦が出産時に酷くつらく苦しい目に遭う理由が説明できるとなれば、信じたくもなってくる。
    
進化学、進化生物学という学問分野は理論の裏づけとなる「科学的証拠」が得られにくいため、主流から離れた学説はなかなか受け入れられないものだという。
しかるに主流がつねに正しいとは限らず、初めは異端視されていた説が後に評価される例はいくらでもあるわけで。
本書の内容がどこまで正しいのか否かは現状ではまだ不明だけれど、わりとなるほどと納得できてしまうのは確か。
なかなか示唆的で面白く読める良書。
 
……それはそれとして本書を読んでると、現代の日本でアレルギーを抱える人が増えたのは過剰な衛生対策と寄生虫がいなくなったせいだと説く某寄生虫博士の主張をなんとなく思いだしてしまって。
ちなみに私は個人的には、藤田紘一郎先生の説は信じたい派だったり。

迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか

迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか