『軌道離脱』(ジョン・J・ナンス)

ひさしぶりのナンスの新刊。
しばらく翻訳がでてなかったけど、まだまだ健在でしたか。
新潮だったら絶対分冊されてたろーと思うと、早川でよかった。
 
ナンスは、航空小説の名手で、第一人者。
翻訳がでたら必ず読んでしまう作家のひとり。
 
今作では、飛行機ではなく宇宙船(シャトル)内が舞台。
民間による宇宙旅行が実現した近未来。
主人公は、ごく普通の会社員。
懸賞に当選し、念願の宇宙旅行に旅立った彼は、しかし、パイロットの急死により、たった独りで軌道上にとり残されてしまう。
地上との交信装置は破損、助けは期待できず、船内の空気は5日しか保たない。
死を覚悟した彼は、シャトルに積まれていたパソコンに、自らの回想録を書きはじめる。
どうせ誰も読まないのだからと、自分のプライバシーから、務めてる会社の不正行為まで、あらゆることを赤裸々に綴っていく。
ところが彼の綴った文章は、本人のあずかり知らぬところで、ネットを介してリアルタイムで発信されてしまう。
天上から発信される、死を覚悟した男のメッセージに全世界が注目し、やがて生産活動までが停滞する事態へと発展。
他方、個人の感情や組織の思惑が錯綜し、いっこうに進まない救出作業。
はたして彼は助かるのか、それとも……?
 
ある意味王道で、ある意味パターンで、「いや、いくらなんでもそれはありえないだろー」という展開もあったりで。
でも。
面白い!
独りでシャトルに閉じこめられた主人公が、回想録を書きはじめたあたりからは、もうやめられない。
時間も忘れ、ラストまではノンストップでした。
これだけ一気に読ませる小説は、じつにひさしぶり。
 
この手のジャンルが好きならお薦め。
損はしない。
正直、いまいち人を読ませる気にさせない表紙なのが、もったいない。

軌道離脱 (ハヤカワ文庫NV)

軌道離脱 (ハヤカワ文庫NV)